GUNMA INNOVATION AWARD

米国研修ツアーレポート

米国研修ツアーレポート 群馬の起業家集団、シリコンバレーを行く!

群馬イノベーションアワード(GIA)2014関係者25人は4月8日から10日、世界のベンチャービジネスの中心地、米・サンフランシスコ市と、IT関連産業の集積地帯であるシリコンバレーを訪ね、起業と投資の現場を視察した。暮らしを変えるビジネスモデルが多様な人材の交流によって生み出されていたり、起業の準備から大金を稼ぐまでの時間は5年以内が当たり前であることなど、日本との起業環境やスピード感の格差を知る旅となった。

トップ:米国視察の参加メンバー。GIA2014大賞の高井雄基さんのほか、イノベーションスクールや支援企業のトップら25人が参加した(スタンフォード大の広大なキャンパスを背景に)
1:ナパバレーツアーで交流する参加者
2:ツアーの最後、ゴールデンゲートブリッジを背景に
3:国公立ランキング世界1位、カルフォルニア大バークレー校。キャンパスも展示資料もケタ違いの大きさ


インキュベーションセンター「Plug&Play」の入口。
壁一面にここを足掛かりに成長したベンチャー企業や
支援企業のロゴプレート

ベンチャー投資に沸く

ケーブルカーが行き交う目抜き通りに面したユニオンスクエア・パーク。観光名所の一つだが、周囲ではビルの改築がせわしなく進む。オフィス街では新築中の高層ビル。港に面した倉庫群は近く高級住宅街に再開発される。サンフランシスコは今、好景気に沸いている。


ベンチャー景気を背景に、高層ビル建設ラッシュの
サンフランシスコ

原動力はほかでもないベンチャービジネス。ジェトロ・サンフランシスコ事務所の東條吉朗所長によると、全米のベンチャー投資マネーの48%がサンフランシスコとシリコンバレーに集まっている。自動運転、人工知能、先端医療機器、そしてIOT(ITとモノの融合)が人気の分野だ。


「Plug&Play」のプレゼンルーム。
億単位の投資資金を求めて毎週、
スタートアップによるプレゼンが行われる

巨額の資金を目当てに、あすのスティーブ・ジョブズ(アップル創設者)を目指す若い技術者も世界中から集まる。シリコンバレーで勤務するスタッフの6割以上が海外出身者だ。
「ただ、一声100億円のビジネスモデルじゃないと投資家に聞いてもらえない。しかも、エグジット(事業を成功させ、上場や事業売却などで利益を手にすること)までのリミットは5年」(東條所長)


アップル本社。シリコンバレーでは今も
ITエンジニアはひっぱりだこで、
アルバイトでさえ時給6000円

情報共有が当たり前

スタートアップ(ビジネスモデルを開発し、急成長を目指す個人や集団)の支援会社2社を訪ねた。
サンフランシスコのデジタルガレージUS。吹き抜けの広々としたフロアにさまざまな大きさのテーブルやソファが配置されている。月貸しの固定席とフリー席が計100ほど。パソコンに向かって作業をする技術者がいれば、ミーティングをするグループもある。間仕切りはなく、ホワイトボード代わりに使える特殊な壁やテーブルには、メモや図形が書き込まれたままだ。


サンフランシスコのインキュベーション会社、
デジタルガレージUS。テーブルや壁がホワイトボード代わり

他の視察先でも感じたことだが、スタートアップの人たちは基本的に情報をオープンにしている。100億円にもなりうるビジネスの情報をなぜ、と不思議に思っていると、同行していただいた大阪大北米センターの樺澤哲センター長が「ここでは情報は出すことで新たな情報や支援、人脈が得られる」と説明してくれた。


デジタルガレージを拠点に米国での事業展開の準備を進める
スマートニュースの浜本階生社長から戦略を聴取

ニュースアプリのユーザー数が世界トップ、スマートニュースの浜本階生社長(33)は、米国での事業を軌道に乗せる人材確保の拠点としてここを利用している。人材を見つける方法は「ほとんど紹介」とのこと。「すごい人に会ったら人を紹介してもらう。その人に会ったらまた別の人を。そうやってネットワークが広がっていく」


シリコンバレーのエバーノート本社

ダイバーシティとハイブリッド

投資家垂涎(すいぜん)のキラーコンテンツはどうやって生み出されるのか。オンラインのデーター保存サービスを提供するエバーノートは、ダイバーシティ(Diversity=多様性)を重視した経営にこだわっている。


日本茶ブームの発信源ともなったエバーノートの食堂。
飲食が無料なのは、社員の幸福度を高めるためという

5階建ての自社ビルには、いたるところに多様な人材の情報や技能、趣味までもビジネスに生かすため、スタッフのコミュニケーションを促す工夫が施されている。個室はほとんどなく、オフィスフロアのかしこに天板が腰より高いテーブル。立ったまま短時間のミーティングや雑談をするためだという。無料の軽食を4階で、飲み物を3階で提供しているのは、4階と3階のスタッフが自然に顔を合わせるようにするため。設備の整ったトレーニングジムがオフィスの隣にある。


エバーノート日本法人会長、外村仁さんが講話。
「違うものとハイブリッドしていくことが
10年後、20年後につながる」

同社は一昨年、日本では初となるハッカソン(短期集中アプリ開発イベント)を東京で開いた。「異種格闘技戦」をコンセプトに多様な分野のエンジニアや中高生にも応募の枠を広げた。同社日本法人の外村仁会長はこのイベントや近年のヒット商品を紹介しつつ「同じ業界で効率とかなんだとかハード的に改善するだけではイノベーションは起こらない。違うものとハイブリッドしていくことが10年後、20年後につながる」と強調した。


スタンフォード大では医工連携の現場を視察。
最新のカテーテルに興味津々の参加者

最先端生み出す寄付社会

世界大学ランキングで5指に入るスタンフォード大。ヤフーやグーグル創設者を輩出し、カリフォルニア大バークレー校などと並ぶシリコンバレーの人材の供給源だ。

3310ヘクタールという広大なキャンパスにはショッピングセンターあり、巨大な教会あり、美術館あり、病院あり。学生はもっぱらバスと自転車で移動する。そうした施設整備と世界最先端の研究環境を維持しているのは年1000億円を超える卒業生たちからの寄付。潤沢な研究費が優秀な学生を輩出し、卒業生がシリコンバレーの資金を吸収して大学に還元する好循環が出来上がっている。
最近、大学が親の所得の少ない学生の学費をタダにすると発表して話題になっていた。驚いたのは対象が年収1500万円以下だということ。

シリコンバレーの人材の供給源、スタンフォード大の
荘厳な教会。卒業生からの潤沢な寄付が
こうした施設整備や研究費に注がれる

樺澤センター長によると、シリコンバレーでは技術者の不足から学生のアルバイトでも時給6000円は当たり前。「だから若いうちからベンチャーに挑戦できるし、家庭も家も持てる」
企業の利益が会社に留保されず人材育成に活用される仕組みと、失敗を恐れず挑戦できる環境。日本との起業環境の格差は歴然だった。


ジェイアイエヌ米国第1号店のオープニングにも立ち会った

オープン初日、JINSユニオンスクエア店で
テレビ番組の取材を受ける女性客