
課題に独自の解決策
起業家発掘プロジェクト「群馬イノベーションアワード(GIA)2024」(上毛新聞社主催、田中仁財団共催)は14日、ファイナルステージに13組が出場した。ラッパーのNAIKA MC(ナイカ エムシー)さん、ブレイクダンサーのSHADE(シェイド)さんとMako(マコ)さんが、それぞれ熱のこもったパフォーマンスを披露。若手起業家4人によるトークセッションでは、好きなことを突き詰める行動力などについて議論を深めた。
【大賞】
スタジオ6.11代表社員・映画監督・脚本家 飯塚 花笑さん
◎ロケ地情報提供し支援
前橋市を拠点に、世界を視野に入れた映画の製作や、俳優のレッスンに取り組む。プレゼンでは撮影地に大きな経済効果をもたらす映画のロケを本県に誘致するため、撮影チームに対して情報をワンストップで提供する事業を紹介した。大賞に選ばれ、「『群馬で映画なんて』と言われることもあった。映画が実際に地域を活性化させていることが認められた」と喜ぶ。
映画の撮影ではスタッフの食事代や宿泊代など、多額の費用がロケ地に還元される。ただ撮影チームが地域の実情に疎く、撮影場所や飲食店、宿泊施設などの情報が不足している場合も多いという。そうした情報を地域と密着した立場から一元的に提供することで、本県での撮影をサポートしている。支援体制の充実によって本県での撮影機会が増えることで、地域経済が潤うだけでなく、レッスン生の出演機会が確保でき、人材育成にもつながっていくと見通す。
非日常をつくる映画への実感を持ってもらおうと、この日は映画「ロッキー」の主人公に扮(ふん)し、顔に傷などの特殊メークを施して臨んだ。「群馬県を映画の聖地へ」。力強く述べ、高らかに拳を突き上げた。
◆ビジネスプラン部門入賞◆
【高校生以下の部】
前橋商業高3年 江戸 美月さん
◎旅行者とガイド結ぶ
コロナ禍が一段落し、国内ではインバウンド(訪日客)需要の取り込みが活発化する中、「トラベル」と「マッチング」を掛け合わせた多言語対応プラットフォーム「トラッチング」を考案した。家族で国内旅行した際、現地の人に親切にしてもらった経験から「外国人にも同じことができたら」と考えたのがきっかけだ。
旅行会社では提供できないニッチなローカル体験を望むインバウンドに照準を合わせた。自治体がトップページを作成し、事業者やガイドと呼ばれる地域住民が登録。旅行者はプロフィルから申請すればマッチング成立となる仕組みだ。
高校卒業後は大学に進学する。「大学でも今回のプランを磨き上げて、起業したい」と目標を掲げる。
【大学生・専門学校生の部】
慶応大3年 渡辺 光祐さん
◎職業限定でポイント
保育や看護、介護の人手不足が深刻化し、その数は介護業界だけでも54万人といわれる。離職を食い止め、目指す人を増やすために、職業限定型のポイントカードで支援する仕組みを考案した。「2年前は受賞できなかったので、結果につながってうれしい」と笑顔を見せた。
人材の定着を狙う自治体や企業が関わり、通常のポイントカードよりも高い還元率を設定。地元での消費が増え、地域活性化にもつながるメリットがある。
「国も賃上げに取り組んでいるが、現状の政策を変えるのは限界がある。お金の使い道で優遇できればと思った」とし、「興味のある企業があれば、ぜひお話ししたい」と事業化への意欲を示した。
【一般の部】
デジタルスイッチ社長 田中 秀彰さん
◎DXの効率化と育成
「システム導入で後悔する会社をゼロに」。企業に実践型デジタルトランスフォーメーション(DX)研修を提供し、業務効率化とIT人材の育成を同時に支援するプランを提案した。
中小企業の多くでDXの成果が出ていないとして、社内にIT人材がいないことや、推進ノウハウがないことなどを要因に指摘する。そんな企業が知識の取得ではなく「自走」できるサービスとして打ち出す。
ワークショップなどを通じて企業の経営像や課題、業務改善に向けたアクションを明確化。必要に応じてペーパーレス化や各種デジタル化の導入などを薦める。「デジタルの市場はますます成長が見込まれる。巨大な市場に対し、群馬県から挑戦していきたい」
◆ベンチャー部門入賞◆
MU社長 村田 悠典さん
◎論文要約し動画配信
生成人工知能(AI)を駆使して医学論文の要約動画を作成し、配信するプラットフォームを開発した。20~30代の若手医師をメインターゲットに、医療の学習が効率的にできるようサポートする。
論文は年間約168万本発行されるが、実際に医師が読めるのは年平均36本ほどという。AIが論文を読み込み2~3分の動画にまとめることで、限られた時間でも多くの知見に触れられるようにする。
製薬企業の営業として10年以上勤務する中で、最新の医薬品の情報が医療従事者に十分に届いていない現状を目の当たりにしてきた。「適切な医療情報を全ての人に届けるために群馬から発信していきたい」と意気込む。
◆奨励賞◆
共愛学園前橋国際大3年 春山 奈緒さん
◎子ども感情色で表示
少子化の今、不登校の児童生徒は増加している。悩みがあっても、自分の気持ちをうまく言葉で表せない子どもは多いと感じたことから、感情を色で可視化し、教師が児童生徒の精神状態に合った指導をできるように手助けするインソール(靴の中敷き)とアプリを考案した。
アプリでは感情を分析する人工知能(AI)を駆使し、中敷きに搭載したセンサーを通して読み取った湿度や脈拍から感情を色で表示。不安や緊張状態が一目で分かるようにする。子どもの生活に支障が出ないように中敷きを採用した。
現在はチームでシステム開発を進め、センサーの利用は企業に働きかけている。「全ての教育現場で当たり前に使えるようにしたい」と展望する。