
独自の視点 世界照準
起業家発掘プロジェクト「群馬イノベーションアワード(GIA)2025」(上毛新聞社主催、田中仁財団共催)は6日、ファイナルステージに15組が出場した。上州八木節保存会と桐生八木節朽津会(くちつかい)が、威勢よい節回しと軽快な踊りで会場を盛り上げた。GIA歴代受賞者によるミニトークや、タイミー(東京都)の小川嶺社長による特別講演で、来場者は新たな挑戦や起業への意識を高めた。
◆大賞◆
群馬大病院耳鼻咽喉科准教授 茂木 雅臣さん
◎補聴器トレ ARで楽に
医師として難聴や中耳炎治療に携わる。自身も先天性難聴で補聴器を着用し、同じ悩みを持つ患者と向き合ってきた。聞こえの改善に効果の高い補聴器だが、普及率は15%ほど。慣れるまでに時間がかかり、使用を諦める患者も多い。「『こんなにうるさいものを使えるか』と言われ、傷ついた経験もした」。トレーニングを続けやすくしたいと考えたのが「スマートグラス」の活用だ。
拡張現実(AR)空間でアバターと会話し、聞き取り精度を評価。周囲の音量や話す人数を調整できる。病院に通わずに練習でき、人工知能(AI)との会話のため聞き間違いも恥ずかしくない。従来のイメージを刷新したいと、補聴器も眼鏡型を検討している。
多くの人に思いを伝えられたことを喜び、「補聴器が眼鏡と同じ感覚で受け入れられる社会にしていきたい」。来年は臨床研究を開始予定で、事業化に向けて歩みを進める。
◆ビジネスプラン部門入賞◆
【大学・短大・専門学校・一般の部】
Augmented Communications(オーグメンテッドコミュニケーションズ)CEO 五十嵐 俊治さん
◎人材育成に音声対話
外国人材が活躍する場面が増える中、外国人スタッフの接客品質の向上が求められている。ただ、実現には多くの時間とコストがかかるのが現状で、解決に向け開発したのが音声対話型OJT支援ソフトウエアシステム「ナレッジボイス」だ。
経営トップの知見を対話などを通して収集、分類、発話生成まで行う音声対話技術を応用。育成したい人材に合わせた修正や、企業ごとに最適な支援が可能。飲食や介護分野で導入する企業が増えている。
さらなる進化を目指して、米マサチューセッツ工科大と共同研究を進めるほか、世界最大級の展示会へも出展する。「受賞は支えてくれた仲間のおかげ。今後も群馬から世界へ挑戦を続けたい」と力を込める。
【高校生以下個人の部】
高崎高2年 田嶋 龍介さん
◎自然派の日焼け止め
パイナップルの葉を使った自然派の日焼け止めの開発を企画、提案した。需要がなく廃棄される葉の成分を紫外線吸収剤に応用し、「人と環境が共存する社会の実現に貢献したい」としている。
一般に販売されている日焼け止めに含まれる石油化学成分や製造工程は、環境負荷が大きいことを知り、環境に優しい原料作りを目指した。暑さに強いパイナップルに着目し、葉から紫外線の吸収作用がある「クチン」を抽出する実験を行い、実際に効果も確認したという。
高崎高では生徒会長を務め、研究開発との両立も図っている。「商品化を目指すとともに、環境問題への意識も高めていきたい」と目標を語った。
【高校生以下団体の部】
君子es 竹渕遙希さん 森戸士雄さん(高崎高2年)
◎AI活用し相談、応援
相談を受けた時、気持ちをうまく伝えられなかった経験から、応援したい人を応援するアプリ「LISTENAVI(リスナビ)」を開発した。ワークショップに参加し、相手の学びや挑戦を応援する「エンパワー」「思考整理」「情報提供」の三つの関わり方を学んだ。
リスナビは生成人工知能(AI)を活用し、会話中の三つの関わり方の回数を可視化するほか、AIが会話を要約することで、相談内容を見失わないようにサポートする。
森戸さんは体調不良で参加がかなわなかったが、竹渕さんは「ライバルの存在が刺激になった。応援文化を広め、笑顔あふれる世界をつくるために活用したい」と喜びをかみしめた。
◆奨励賞◆
伊勢崎高2年 RAHMAN SAMEEHA(ラハマン・サミハ)さん
◎「ハラル」キッチンカー
イスラム教の戒律「ハラル」にのっとった食材で作った「ハラル食」を提供するキッチンカーの出店を提案した。本県で生活するイスラム教徒の需要に応えたいとする。
学校行事の打ち上げで利用する飲食店として友人たちからハラル食を提供する店を提案されるも、合わせてもらうことに申し訳なさを感じて参加を断り続けてきたという。自分と同じような悩みを抱えている高校生、大学生らを支援し、「『優しさの擦れ違い』をなくしていきたい」と強調する。多彩なメニューを取り扱い、高校や大学への出店を目指す。
将来は「国内初のハラル食のファストフードチェーンを作りたい」と目標を掲げる。
◆ベンチャー部門入賞◆
PHOSLOOP(フォスループ)社長 青柳 拓也さん
◎豚ぷん堆肥を資源に
農作物の肥料や飼料に欠かせないリンを抽出できる豚ぷん堆肥に着目し、新たな資源の循環を考案した。「養豚や農業が盛んな群馬だからこそ、全国に先駆けた循環モデルを作りたい」と力を込める。
リンは世界の一部地域に偏在する地下資源で、日本は全てを輸入に頼っている。国際情勢不安で肥料が高騰すれば、農業への打撃になりかねない。
養豚農家が処理に困っていた豚ぷん堆肥を引き取っって、炭に加工したり、リンを抽出したりして資源の安定供給につなげる。養豚業の近藤スワインポーク(前橋市)の協力を得て研究を進める。本県には「リン鉱山がある」とし、「農家の方々と一緒に仕組みを作りたい」と意気込む。
掲載日
2025/12/07
