
GIA2022 トップ座談会③
起業家発掘プロジェクト「群馬イノベーションアワード(GIA)2022」トップ座談会の3回目は、座長の荒井正昭オープンハウスグループ社長ら12人が、「イノベーションの先にあるもの」をテーマに、各業界の事業内容を見直して進化、成長する姿勢や目指す目標、今後の展望について活発に意見を交わした。
■失敗を恐れず挑戦 メイクワングループ代表 武井 一樹氏
不動産、建築、福祉、食品、美容の五つの分野でお客さまに必要とされる新たな商品やサービスを開発して提供している。
創業時から未来に何ができるかを常に考え、お客さまに喜ばれるモノやコトを生み出すことに企業家としての醍醐味(だいごみ)を感じてきた。
創造した商品やサービスにさらに磨きをかけ、挑戦し続けることが、イノベーションを起こすきっかけになると考えている。そのため、社員には徹底して「失敗を恐れず挑戦し、仕事を楽しもう」と言い続けてきた。
企業の成長は社員の成長と共にある。失敗から学ぶことで成功に導き、お客さまの必要性を最大化して進化し続けたい。
たけい・かずき 1985年、高崎市生まれ。20歳で不動産建設業に就き、24歳で独立。国内外で100以上の店舗開発に携わり、時代に合うサービス創出に注力。不動産、建設、福祉、食品、美容などの事業を展開する
■人材育成で差別化 オープンハウスグループ社長 荒井 正昭氏
住宅建築、販売などの不動産業を展開、今秋創業26年目を迎えた。連結売上額は予測よりかなり早いペースで1兆円に届く見込みだ。
米国のIT系不動産会社は株価が10分の1に下落し、経営状態は良くない。イノベーションは簡単には起こらないと考えている。特に住宅販売がメインとなる不動産業の根本は、優秀な人材の確保が全て。お客さまと直接関わる営業マンのレベルアップは必要不可欠。その点は今後も変わらないと思う。
少子化が著しい中、ITは業務の効率化には大きく貢献するが、弊社は長く働いてくれる人材育成に注力して他社との差別化を図る。それが勝者になる道と考えている。
あらい・まさあき 1965年、旧藪塚本町(現太田市)生まれ。都内の不動産会社勤務を経て、97年に不動産業のオープンハウスを設立。2013年に東証1部上場。19年に群馬クレインサンダーズの運営会社を子会社化
■新たな事業を創出 コーエィE・C事業部統括部長 加藤 満氏
建設機械のレンタルやイベントの企画運営、環境機器の設備工事事業を展開している。
コロナ禍でイベントが無くなり、培ったノウハウを感染対策に生かして県からワクチン接種会場の運営を受託。毎日、数百人のスタッフがGメッセ群馬で1万人規模の会場運営を約1年間行った。
前橋市の「粕川温泉元気ランド」と「あいのやまの湯」の指定管理事業にも進出。12月にプールを閉鎖して子ども向けチャレンジ広場を開設し、アミューズメント型の日帰り温泉を目指している。
観覧車で公園をPRする遊園地事業も始めた。イベントとは全く違う形態の新事業開発への挑戦というイノベーションを行っている。
かとう・みつる 1967年、埼玉県熊谷市生まれ。イベント事業の全体管理と営業を担当。ラグビーワールドカップ2019、東京オリ・パラ2020に関わり、PⅢ戦略室長も兼務、公共施設等のPPP事業にも取り組む
■地域に利益を還元 ウベハウス東日本社長 反町 優哉氏
土木、建築、不動産などを手がける総合建設業で、公共事業が受注の中心。関連会社で介護事業やキャンプ場を経営している。
コロナ下でリモート会議が普及した。元々あった遠隔会議のやり方だと思うが、そうせざるを得ない状況になって初めて皆がその価値を再認識した。そこからイノベーションが起こるのではないかと感じている。
住を担う弊社は「充実した暮らし」そのものをお客さまに提案している。社員とその家族を大切にすることが経営理念。少子化やコロナ下で事業は難しい局面にあるが、地域や県全体に波紋のように利益を還元し、貢献できる企業に成長していきたい。
そりまち・ゆうや 1989年、高崎市生まれ。2017年、大学卒業と同時に先代社長、反町晴美の急逝に伴い社長就任。建築・土木・不動産の総合建設業を営む。系列企業で介護施設やキャンプ場などの運営を行う
■「次」の追究続ける 太陽誘電開発研究所長 平国 正一郎氏
スマートフォンや自動車などで使用する電子部品の研究、開発、製造、販売を手がける。
研究所でも「イノベーション」は飛び交う言葉だが、インベンション(発明)とイノベーション(変革)は違う。スマートフォンのように人々の生活をがらりと変えてこそ、変革だと言われている。
1988年、世界初となるデジタルデータの記録製品「CD―R」を発明し、「That’s」シリーズを販売した。好みの音楽や映像の録音、録画ができるようになり、世の中を変えたと思う。その後、記録媒体は半導体に換わり、ディスクは使われなくなった。一つ成功しても「次は何だろう」と常に考え、追究し続けることが大切だ。
ひらくに・しょういちろう 1965年、鹿児島県鹿児島市生まれ。大学卒業後、88年太陽誘電入社。主に研究所で研究開発に従事。2017年から現職
■「自社一貫」に注力 ゴダイ社長 多部田 敬三氏
「石のゴダイ」は今年、創業35年を迎えた。従来の供養の形は大きく変わり、墓石が売れなくなった。6年前から葬儀、仏壇、霊園、永代供養墓、法事、終活支援まで自社一貫して手がけるワンストップサービスを始めた。
葬儀は避けられない行事だが、明るいイメージで営業していこうと、イオンモール高崎内に業界としては珍しい終活相談の店舗を9月にオープンした。少子高齢社会の中、心配事を抱えて無料相談に訪れる来場者が多い。
お客さまに寄り添い、満足していただける一貫したサービスの確立に力を入れている。人材のレベルアップにも努め、終活を切り口にマイナーな商品をメジャーに育てたい。
たべた・けいぞう 1955年、太田市生まれ。桐生商業高卒業後、就職。2社での勤務を経て31歳の時に伊勢崎市でゴダイを独立開業。「供養のワンストップサービス」を掲げ、北関東を中心に営業展開している
■アイデア出し行動 NTT東日本群馬支店長 橋本 寿太郎氏
群馬に通信局ができて145年。支店社員400人のうち9割が県内在住者。地域に根付いた企業として、大都市一極集中から地方への分散化・多極化を通信面でしっかりサポートしたい。
今の社会をよく観察し、中長期的に役に立つ事を目標に定め、アイデアを出して行動する。その循環を続けることが必要だと思う。
人口減少社会を見据えてインターネット上の仮想空間「メタバース」を活用した調剤業務サービスなどに挑戦している。成否は分からなくても、地域の皆さんと共に挑戦することが、イノベーションへの一歩につながる。ある分野の頂点に立つことで見える景色が変わってくると思う。
はしもと・じゅたろう 1972年、福島市生まれ。95年NTT入社。NTT東日本千葉事業部企画部長などを歴任。2021年6月より現職。群馬の企業として地域と共に歩むよう、社員の意識改革に努めている
■経営の改善 後押し 田子会計事務所代表 田子 宏美氏
2代目となって3年。中小企業経営者の課題を解決して安定経営を図り、共に成長する「頼れる会計事務所」を目指している。
お手伝いした中小企業の困りごとは多岐にわたり、コロナ下でもお客さまが増えた。「人、お金、税金、経営」の専門家をそろえ、ワンストップで課題を解決できる体制づくりを進めている。
電子帳簿保存法が改正され、来年からインボイス制度が始まる。知識や技術、システムのない中小企業の旧来の会計業務を省力化し、データを経営改善に生かす仕組みも整えている。中小企業の持つ「目に見えない財産」が輝けるように、次世代に承継するお手伝いもしていきたい。
たご・ひろみ 1980年、前橋市生まれ。税理士、中小企業診断士。名古屋で勤務後に帰郷し、2019年から現職。女性経営者、創業者の支援、事業承継、コンサルティングに力を入れている
■目的は「SDGs」 富士スバル会長兼CEO 斎藤 郁雄氏
群馬と栃木で国産と輸入車の販売、整備事業を展開し、今年創業75周年を迎えた。10月にノルウェーを視察した。政府の全面的支援で販売車両は、ほぼ電気自動車。自国に自動車産業がないため、電動化に大きく舵(かじ)を切れた。
電気自動車の部品は従来の3分の1で済み、日本の基幹産業を支える中小企業の雇用維持は難しい。ドイツも似たような状況だ。自動運転は欧州と同等の水準だが、自動運転車とそうでない車が混在する状況は、非常に危険だと言われている。
自動車業界におけるイノベーションの目的やその先にあるのは、北欧の人が考える「自然との共生、交通事故ゼロ」に行き着く。SDGsに近い印象を受けた。
さいとう・いくお 1967年、前橋市生まれ。大学院修了後、外資系証券会社勤務を経て富士オート入社。2003年にグループ会社のユーロブレッツア代表取締役社長、15年から現職
■物件に感動を付加 広田住宅センター社長 広田 金次郎氏
高崎、前橋の両市で不動産の仲介、管理業を中心に経営しているが、最近は相続にまつわる業務も増えている。
世の中の価値観を劇的に変えるだけでなく、持続して物の価値を高めたり、システムや性能を改善したりすることもイノベーションの一つととらえている。大量消費社会で物があふれているが、全ての不動産は同じ造りでも日当たりや広さなどによって世界にただ一つのものになる。
良質な物件は大前提だが、これからは一つ一つの物件にストーリーや感動を付加したいと考えている。敷居の高いイメージを払拭し、お客さまがどこで取引しても、均一なサービスや満足が得られるように力を尽くしたい。
ひろた・きんじろう 1977年、高崎市生まれ。大学卒業後、91年、23歳で広田住宅センター入社。賃貸仲介、売買仲介業務を経て2016年から同センターおよびグループ会社の代表に就任
■社員の交流に期待 前橋園芸社長 中村 敬太郎氏
造園や外構デザイン、観葉植物のレンタル、切り花の販売などを手がけている。
豊かな自然の楽しみ方は、個人の庭から公共の場所で共有する形に変わった。お客さまに選ばれるためには変化することが必要。今年、沼田市白沢町に展示場を兼ねたグランピング・オートキャンプ場をオープン、プールとサウナも併設した新事業を始めた。
植物を育てて喜ばれる空間をつくる造園業と、心の交流で満足していただく宿泊業という全く異なる考え方を持つスタッフの交流が始まった。新たな可能性が生まれ、その先にイノベーションが起きるのではないかと期待している。変革の先にあるのは変革だと思う。
なかむら・けいたろう 1971年、前橋市生まれ。造園・外構工事会社を経て、2003年に家業の前橋園芸入社。10年から現職。外構造園の設計施工、観葉植物レンタル、生花販売などを手がける
■喜ばれる事業創る プリマベーラリユース事業部長 守田 達郎氏
県内を中心に4事業部17業態で「もったいない」をビジネスに、古着のリユースショップや書店を運営する。
2017年、現場スタッフの声から始めたヘアカット用はさみ「シザー」のリサイクル事業は右肩上がりで伸び、年商が4千万円になった。人材の育成やサービスの効率化を進めてイノベーションが起きたと思っている。
自社開発したオンライン日報の「日報革命」を活用してスタッフ全員の意見を集約している。イノベーションにつながる小さな声や意見を発見し、挑戦できる環境を育てて維持している。シザーのように、お客さまに喜ばれる画期的なサービスを生み出し続けることを大切にしたい。
もりた・たつろう 1985年、富山県氷見市生まれ。古着や貴金属、骨董(こっとう)品などのリサイクル事業を中心に県内外で展開するプリマベーラに2008年入社
22.11.09 上毛新聞掲載はこちら