起業家発掘プロジェクト「群馬イノベーションアワード(GIA)2023」(上毛新聞社主催、田中仁財団共催)は28日、ファイナルステージに15組が出場してビジネスプランを競った。東京農大二高(高崎市)の吹奏楽部員約150人が迫力満点の演奏とフラッグ演技を披露。特別講演では、クリエーティブディレクターでGO代表の三浦崇宏さんが「前に進む力を高めてほしい」と訴えた。
【大賞】海なし県 エビ養殖挑む
東京大4年 加藤 徳明さん
海なし県の群馬でクルマエビの養殖に挑む。出身地の榛東村と前橋市で9月から、高校の同級生で友人の東崎大和さん(25)とクルマエビ計千匹の育成を始めた。受賞を受けて、「とにかくうれしい。僕1人では賞は取れなかった。支えてくれた人たちに感謝したい。(事業を展開していく)決意が固まった」と熱く語る。
海産物が好きで、本県でも新鮮で生きた状態のものを食べたいと、挑戦を決めた。養殖の方法を調べる中で、魚の養殖と水耕栽培を組み合わせた循環型農法「アクアポニックス」を知り、従来の淡水ではなく、海水でも応用できると考えた。
同農法は、養殖した魚の排せつ物を微生物が分解してできた栄養のある水で野菜などの植物を栽培し、浄化された水を水槽に戻すシステム。4カ月で成体になり、年間で3サイクルの養殖が可能で収益性が高いクルマエビに着目した。
「内陸養殖が世界に通用するような広がりを持っている事業だということが評価されたと思う。サーモンやヒラメ、チョウザメなど複数魚種の育成へ挑戦したい」。規模を拡大し、将来的には世界展開を見据える。
【関東経済産業局長賞】相続の手続きアプリで支援
C&Fマーケティング 佐藤 栄寿さん
相続の手続きは、膨大な紙の書類で行うことが一般的で「死後を悲しむ時間がないほど大変な作業」。デジタル化の遅れを課題と捉えた。団塊の世代が後期高齢者になる「2025年問題」が目前に迫っているのを受け、手軽に手続きできるアプリケーション「キズナつなぐ(仮称)」を考案した。
赤ちゃんの予防接種スケジュールを管理する既存のアプリに着想を得た。開発したアプリには、必要書類や提出窓口、進捗(しんちょく)状況を一目で確認できる画面や、相続人同士のトラブルを回避するためのアドバイスを通知する機能などを備える。「誰一人取り残さない」という考えから、アプリは相続人の間で同期でき、内容を共有することが可能だ。
将来性の高い市場として目を付けており、既にビジネスモデルの特許を取得済み。金融機関をはじめ、相続に関連する広告を表示させるシステムを導入するなど、本格的な実装を見据えた動きを進めている。
50歳で起業に挑戦した。「相続の問題は家族間のトラブルに直結する。手続きのデジタル化を促し、『大相続時代』の到来に向けて家庭の絆を強くしたい」と意気込む。
【ベンチャー部門入賞】
◎企業連携商品で難民の教育支援
◆奨励賞◆
ぐんま国際アカデミー中等部 鈴木 聡真さん(3年) 鈴木 杏さん(1年)
きょうだいでイスラム教徒少数民族ロヒンギャの支援に励む。提案事業は、企業とのコラボレーション商品の利益の半分を、バングラデシュの難民キャンプで暮らすロヒンギャの子どもの教育活動に役立てる。
スーパーを例に本県で消費量が多いキュウリを選定。支援金は年間約215万円と試算し、教科書や文房具を全員に配布でき、学び続けられるとする。商品パッケージのQRコードで活動報告が見られ、協力企業のイメージ向上にもつなげる。「継続して支援できるよう、事業化したい」と2人は強い思いで臨む。
◎農家と生活者飲料でつなぐ
ブラックマウンテンズ 岡田 康弘さん
有機栽培の野菜、果物を使ったジュース販売やヨガ教室を開くカフェ「koyomi」が、農家と生活者をつなぐ「循環型エコシステム」としての機能を果たしている。
県内のオーガニック農家から大量の規格外野菜を仕入れることで、収入増に貢献。一方、地域の顧客は1本に2日分の野菜が入った「コールドプレスジュース」を定期購入することで、健康習慣につながるだけでなく、費用対効果の面でもお得感が味わえる。
9月に清涼飲料水の製造免許を取得。年末にはオンライン通販、卸売りを始める予定で、「飲食店営業の対面販売から、新たに製造業に取り組む。第2フェーズに入り、さらに飛躍したい」と意気込む。
【ビジネスプラン部門入賞】
◆高校生以下の部◆
◎しょうゆ粕で肌守る
伊勢崎商業高 ターイーバ・サディアさん(3年) 星野 士夢さん(2年)
しょうゆを造る過程でできる「しょうゆ粕(かす)」に着目した。産業廃棄物として捨てられていたものに新たな価値を見いだし、商品化することを考案した。
しょうゆ粕には、肌を守るバリアー成分を強化する機能があることを発見。その成分は年齢とともに減少するため、スキンケアが必要となる40代以上の男性をターゲットにした化粧品の開発を提案した。
1年前に正田醤油(館林市)を訪ねたことが研究の発端になった。ターイーバさんの出身地であるバングラデシュや昔の日本のように、「物を大事にする精神」が事業の根底にある。2人は入賞に「自分たちが研究してきたことが評価されてうれしい。もっと発展させたい」と語った。
◆大学生・専門学校生の部◆
◎DX支援で学生派遣
共愛学園前橋国際大3年 出井 樹利亜さん
大学で情報系コースに所属し、デジタル化に注目する中で中小企業がデジタルトランスフォーメーション(DX)推進で悩んでいることを知った。課題の一つの人材不足に着目し、ITやDXに関するスキルを持つ学生を大学の研究室を通して企業に派遣するサービス「TranS(トランス)」を企画した。
派遣された学生は電子フォーマット作成やワークフロー構築などを担い、企業を支援。デジタル人材と接点が少ない企業も利用でき、採用コストやコンサル費用を軽減できるとする。学生は知識や能力を生かした就業体験ができる。学内の研究室に声をかけており、「まずは県内の中小事業と学生を結びつけ展開させたい」と展望を語った。
◆一般の部◆
◎仕事の適性 耳で見極め
Trait_鼓膜温ラボ 坂本 博明さん
製造現場などで働く人のストレスを見極める鼓膜温センサーを活用し、持続可能な労働力の確保を提案した。人材が多様化する中、個人が働きやすい環境に配置して、従業員の定着や生産性向上が期待できる。
鼓膜温センサーは、耳の温度で体への負担を指標化する。作業者は生体データから仕事の適性が分かり、管理者は作業者の状態を把握できる。作業効率を上げて労働力不足を補う。
着想は製造現場の管理部門で働いた経験からだ。作業員個人の特性に合った仕事を割り当て、いかに負担を減らして効率を上げるか20年近く考えてきた。
「長くこだわってきた研究が報われた。実用化に向けてセンサーの精度を高めたい」と受賞を喜んだ。
23.10.29 上毛新聞掲載はこちら