起業家発掘プロジェクト「群馬イノベーションアワード(GIA)2023」(上毛新聞社主催、田中仁財団共催)の実行委員と協賛社によるトップ座談会が、前橋市のロイヤルチェスター前橋で開かれた。テーマは「これからの成長戦略」。その模様を全6回で紹介する。第1回は座長の田中仁ジンズホールディングスCEOら9人が、変革や事業発展に向けて取り組んでいる人材育成や新規事業について活発に意見交換した。また都合により参加できなかった協賛社からはメッセージをもらった。
アサヒ商会社長 広瀬 一成氏 成長へDX人材育成
多くの中小企業は、デジタルトランスフォーメーション(DX)を担える人材が社内に少ない。社外人材に任せる考えもあるが、外部人材が業務内容を理解し改善することは困難が伴う。であるならば解は社内人材。デジタルやITの素養を上げれば現場の人間が活躍できる。
DX人材育成などデジタル化の支援業務を昨年開始した。当社も失敗を繰り返しながら、DXの経験を積んできた。
そこで、自社の経験とともに都内の企業と提携して、「DX学校」を始めた。中小企業のデジタル化担当人材の育成や伴走支援を行っていく。デジタル化支援を文具に変わる次の成長戦略として取り組みたい。
ひろせ・かずしげ 1976年、高崎市生まれ。航空貨物会社を経て、祖父が創業したアサヒ商会に2009年入社。3代目社長に就任した。文具・OA機器、オフィス家具などを販売している
有坂中央学園理事長 中島慎太郎氏 教育をコンテンツ化
専門学校で行っている教育をコンテンツビジネスとして展開したい。デジタルを活用するほか、現実の授業でも、企業や他の学校、大学と積極的に連携したいと考えている。学校との連携では、広島県や四国の専門学校と教材、カリキュラムを共通にして、双方の教員が配信するといった取り組みをしている。
企業との連携でデュアルテクニカルセンターを設立した。学生が同センターを通じて、企業の研究開発にアルバイトとして参加できるようになった。学校で学んだ知識を実習の場で実学として学べるようにしたいと考えている。教育業界は変わることで価値を高められる。積極的にいろいろなことに挑戦したい。
なかじま・しんたろう 1976年、前橋市生まれ。大学卒業後、TACを経て、中央カレッジグループに2004年入職。22年からグループ中核の学校法人有坂中央学園の理事長に就任
ユナ厨房社長 五十畑隆宏氏 飲食店を幅広く支援
当社は飲食店に機器のリユース、中古品などの販売から出発し、メンテナンスや修理などサービスを広げている。
近年はコロナの収束もあって、飲食店の開業を考えているお客さまからの相談が増えている。長年、料理人として経験を積まれたお客さまでも開業するためのノウハウが分からない人も多い。これまでも助言する機会はあったが、本格的にコンサルタント業務に乗り出そうと、社内でプログラムを立ち上げた。現在、講師を招いて教室などを開いている。
今後は開店だけではなく、既存の店舗の再生、店じまいと片付けまで、飲食業界をトータルで支援していきたいと考えている。
いかはた・たかひろ 1971年、栃木県佐野市生まれ。厨房機器大手メーカーの営業を経て2002年に起業。リユース品の販売から始まり今は開業支援からメンテナンスまでトータルサポートを手がける
emusalon社長 前原 弘隆氏 人材定着へ独立応援
美容業界は手に職がつくため、離職率が高いのが業界全体の悩みだ。当社は仕事のやりがいと価値の向上のため、早期育成制度を構築している。若いスタッフにもお客さまの趣味嗜好( しこう)に合うマッチング機会をつくり、早期デビューを可能にした。また一度美容から離れ、ブランクのあるママ世代を積極的に雇用し、社内アカデミーで再教育をしている。
美容のメニューも多様化し、眉毛、まつ毛、ネイル、脱毛など単品メニューでのスタイリストデビュー化にも取り組んでいる。美容の総合企業として地域の方々から信頼されるブランドを目指しており、店長経験者にはのれん分け型フランチャイズ展開も進めていく予定だ。
まえはら・ひろたか 1975年、大泉町生まれ。美容専門学校卒業後、原宿のヘアサロンに入社。数多くのトレンドヘアスタイルを手がける。2002年、エムサロン開業。県内にトータルビューティーサロン7店舗を展開
群馬トヨタグループ専務 横田 龍太氏 力合わせ 群馬に輝きを
自動車業界はシェアリングや電動化等の技術進化により、大きな変化に直面。グループ6社は成長を続けていくため、これまで間接部門のオフィス集約や中古車バックヤード統合など裏側の連携を進めてきた。今後は土地や建物などグループの経営資源を有効活用しながら表側の協業幅を増やし、グループ全体でお客さまとの接点強化を図っていきたい。
グループビジョン(Glow To Gunma)に「群馬に輝きをもたらす」という想いを込めた。現在も移動手段の課題を自治体と連携して取り組み、こども食堂への寄付等を継続している。今後も6社が持つ経営資源を有効活用し、群馬に輝きをもたらす活動を進めていきたい。
よこた・りゅうた 1988年、高崎市生まれ。大学卒業後、トヨタ自動車に入社し7年間の勤務を経て、2018年に群馬トヨタ入社。北米トヨタに1年半出向後、19年帰任。21年より営業本部長就任
ジンズホールディングスCEO 田中 仁氏 本当の意味で主役に
今の業態を始めて22年たち、当時は新鮮だったものが今では普通になってきた。お客さまが製品・サービスと出合い、購入に至るまでの道筋「カスタマージャーニー」を新しくしたい。デジタルを活用し、これまでの眼鏡店から大きく進化して、お客さまが本当の意味で主役になれる顧客体験を構築したい。
健康やヘルスケアといった分野では、学術機関と連携し、近視を眼鏡で抑制するような医療機器の開発や睡眠の共同研究に取り組んでいる。
現在、中国、香港、台湾、フィリピン、アメリカに出店しているが、今後は東南アジアを中心に出店を進めたい。横展開していき、グローバルな新しいブランドを作りたい。
たなか・ひとし 1963年、前橋市生まれ。88年にジェイアイエヌ(現ジンズホールディングス)を設立、2001年、アイウエアブランド「JINS」を開始。14年、起業支援・地域振興を目的に田中仁財団を設立
共愛学園前橋国際大学長 大森 昭生氏 地域の人材を育てる
研究ばかりではなく、学生の成長にコミットする大学であることが、本学が評価されている点だと考えている。学生が卒業後、幸せに生きるために必要な力をつけてもらうため、社会の動きと連動して、学びを常にブラッシュアップしている。その流れで人材育成の拠点として「デジタル・グリーン学部」の新設を計画している。地元の前橋市がデジタルの力によって共助型未来都市である「デジタルグリーンシティ」を目指している。これから必要とされるデジタル人材を育成することが本学の役割だと感じている。本学の「地域の人材を預かり、地域の皆さんと育てる」というスタンスは変えず、新たな分野に挑戦していきたい。
おおもり・あきお 1968年、仙台市生まれ。共愛学園に96年入職。2016年から現職。21年から運営する同大短期大学部の学長を兼務。全国の学長が注目する学長ランキング2年連続1位(大学ランキング2023/2024)
高崎信用金庫常務理事 碓井 浩彦氏 課題解決を最優先に
ウクライナ情勢による燃料費、原材料費高騰が、多くの事業者の皆さまに影響を与えている。当金庫は地元事業者の課題解決を最優先事項として取り組んでいる。
事業サポート相談では、面談を通じて事業者が抱える課題を把握。本部の専門部のスタッフが課題解決へのスキームを考え、外部専門家や機関と連携している。相談件数は年々増え、昨年度の申し込みは2199件だった。うち1569件で実効性のある支援ができた。取引先に限定せず、地元企業を広く支援するため、ビジネスソリューション担当も新設した。こうした活動を通し、地元企業の経営を支援していくことが当金庫の使命だと考えている。
うすい・ひろひこ 1960年、高崎市生まれ。84年に入庫。総務部長、本店営業部長、人事部長を経て、2022年より現職。地域の皆さまのお役に立ち、「地域に寄り添い、地域で最も信頼される金融機関」を目指している
みずほ証券高崎支店長 松澤 浩文氏 日本の金融教育 推進
株式投資は安く買って高く売るというイメージがあると思うが、売る機会というのは後になってみないとわからないことが多い。ただ株式というのは長く持てば結果が出る。米国の時価総額は50年で40倍、10年で3倍以上も上がっている。
日本の金融資産の中で有価証券が占める割合は15%しかない。米国は50%もある。株価が上がっている今、個人の金融資産の差は歴然だ。日本でも年金運用の半分は株式。金融リテラシーを底上げすることが大切だ。当社は各企業や自治体、学校での金融教育を進めている。来年はNISAの投資枠が広がる。若い世代に限らず、ミドル層、経営陣向けの教室を設けているので利用してほしい。
まつざわ・ひろふみ 1969年、三重県生まれ。大学卒業後、92年和光証券(現みずほ証券)に入社。2020年に高崎支店長就任。顧客ニーズが多様化する中、グループ力を生かしたさまざまなサービスを提供できることが強み
メッセージ
クライム社長 金井 修氏 「攻めの経営」を実現
創業34年、IT技術の発展とともにシステム開発を中心に事業拡大を図り続けてきました。未来に向けた取り組みとして、既存ビジネスのさらなる強化をはじめ、DX推進、AI・クラウドなどの新しい分野への展開により市場の競争優位性を構築するともに、全社的なイノベーティブ体質化に着手することで「攻めの経営」を実現し、グループシナジーを最大限に発揮する成長戦略を推進いたします。
カネコ種苗社長 金子 昌彦氏 育種技術で世界挑戦
日本は四季折々の風土が魅力の国です。この風土に適応するための品種開発は日本の育種技術を向上させてきました。カネコ種苗はこの育種技術を駆使して世界の産地にも安全で安心な野菜を提供することに挑戦しています。この挑戦の中心には人材がいます。カネコ種苗は人材を大切にし、育種技術の向上と新品種の提供を通じて、ウェルビーイングと持続的な農業に貢献することに取り組み、会社として成長することを目指しています。
次回は27日掲載
23.9.20 上毛新聞掲載はこちら