GIA2022 トップ座談会④
起業家発掘プロジェクト「群馬イノベーションアワード(GIA)2022」トップ座談会の第4回は、座長の腰高博コシダカホールディングス社長ら11人が「イノベーションの先にあるもの」をテーマに、デジタルトランスフォーメーション(DX)や新たな価値の創造、各業界の可能性や今後の展望について意見を交わした。
■知恵絞り現状打開 コシダカホールディングス社長 腰高 博氏
カラオケ店を全国600店、海外で15店経営。コロナ禍の2年間で大打撃を受けたが、ここ半年でようやく光明が見えてきた。
円安や人口減で、日本が危機的状況にあると改めて認識している。国全体、社会全体のイノベーションが必要だ。そんな中、中堅、中小企業が起業家精神を醸し、挑戦し続けて社会に大きなインパクトを与える流れが広がれば、日本も再生できるのではと感じている。
カラオケは閉塞的な業界だが、裏を返せば打開的イノベーションが起こせる環境が整っているということ。海外でフェイス・トゥ・フェイスの交流が戻る中、私たちに何ができるのか。知恵を絞っていきたい。
こしだか・ひろし 1960年生まれ。前橋市出身。大学を卒業後、家業のラーメン店に入社。90年、カラオケ事業に転進し、95年から現職。温浴事業も手掛ける。海外にも事業展開中
■県内のDXを支援 クライム社長 金井 修氏
ぐんまプログラミングアワードを通じた人材教育や、県内のDXを支援してきた。また、前橋市の「まえばし暮らしテック推進事業」が国のデジタル田園都市国家構想に採択されるなど、手がけてきたことが実を結び始めたことを実感している。
技術の進歩がすさまじい。仮想現実の中で娯楽や買い物が可能なメタバースは、インターネットと同等の衝撃があり、同じ業態を続けていたら30年後に生き残れる会社はないだろうといわれている。ただ、具体的にどうなるのかは分からないので、変化に対応できる体制をつくっておくことが重要だ。今後も、県内企業の「その時」へ向けた改革のお手伝いをしていきたい。
かない・おさむ 1961年、沼田市生まれ。群馬富士通勤務を経て、89年にクライムを設立。金融・行政のシステム開発と積極的なM&A(合併・買収)などで事業を拡大してきた
■放棄地を稼ぐ緑に ジャングルデリバリー社長 三田 英彦氏
全国に40万ヘクタールある耕作放棄地を「稼ぐ緑」に変えようと、オリーブを植え続けている。実は全て買い取り、オイルだけでなく、地元企業と連携した化粧品、健康食品などの開発を進めている。
事業への本気度が浸透すると、他業種と交流が生まれる楽しさがある。肥飼料が高騰する中、大手飲食店とコーヒー豆のかすをたい肥にし、できた作物を店に戻す「リサイクルループ」にも挑戦中だ。
エクイティ・ファイナンスで資金調達を試みたが、県内では難しかった。新しい取り組みに対応できる法律家がいないと、人や仕事が都会に流出することにもつながる。この苦労を後進に伝えるべく、悪戦苦闘している。
みた・ひでひこ 1964年、藤岡市生まれ。NECを経て妻の実家の三田三昭堂に入社し、95年に代表就任。GIA2017のイノベーション部門賞の受賞を機にジャングルデリバリーを起業、オリーブ栽培に取り組む
■求職者に寄り添う セントラルサービス社長 大本 寛氏
製造業を中心に、人材派遣と業務請負を行っている。コロナ禍で、求職者に寄り添える会社でありたいという思いを改めて強くした。働き方の多様化で、勤務時間や通勤距離などで派遣先とマッチングしないケースが増えている。そこで、企業や行政がアウトソーシングしたい仕事を自社で請け負い、勤怠を管理して雇用を生むシステムづくりに挑戦している。これにより、主婦や介護中の人など、週2回だけ、1日3時間だけ働きたいという需要に対応できる。
日本は労働人口と技術者の不足という課題を抱えている。対応する業種、業態を広げ、人材育成などを通じて群馬のお客さまのニーズに応えていきたい。
おおもと・ひろし 1977年、水戸市生まれ。99年セントラルサービス入社。入社後2年間、請負スタッフとして製造現場に従事。その後、複数の営業所責任者を経て、2015年から現職
■そば文化の発展を ダイコー社長 齋藤 胡依氏
そば専門店の経営と、業務用食品卸やそば粉製造を手がけている。今年3月には鶏弁当店「屋台蔵」を開業した。
「おいしいそばを提供したい」という単純な思いから、ソバの実の契約栽培を進め、製粉工場を整備。人材育成に「日本そば文化学院」も開設した。来月、卒業生が北海道・函館でそば店を開く予定だ。高校生のそば打ち全国大会も多くの協賛を得て開催でき、そば文化の発展に寄与するイノベーションを起こせたと自負している。
GIA2020のイノベーション部門で入賞し、自分が少し変わったと思えた。今後も「体験」をキーワードに、新たな事業を開拓していきたい。
さいとう・こい 1970年、中国生まれ。2006年に十割そば専門店「竹林」を開店し、08年にダイコーを設立。そば店経営や業務用食材の仕入れ、販売業務、そば粉の製粉業を展開。「日本そば文化学院」理事長
■互助サービス拡大 メモリード社長 吉田 卓史氏
互助会システムを利用した冠婚葬祭業を展開している。アフターコロナを見据え、月1回は海外視察に出向いているが、コロナ前よりも人々が密に交流している印象だ。改めて感じたのは、人間はリアルで会い、感動を共有するのが好きな生き物ということ。友達婚や同性婚など、結婚への価値観が多様化する中、人生の一場面を最高のものにするお手伝いができるよう、リゾートホテル購入など環境整備を進めている。
冠婚葬祭に特化されている、互助会のサービスの拡大を模索している。メモリードの会員ならば日々特典が受けられる仕組みをつくり、互助会のメリットを感じられる瞬間を増やしていきたい。
よしだ・たかし 1971年、長崎市生まれ。97年、冠婚葬祭互助会のメモリードに入社。2014年から現職。社業の傍らスポーツ科学を学び、18年に修士を取得。趣味はトライアスロン
■動線の変革へ尽力 クスリのマルエ社長 江黒 太郎氏
医療費が国の財政を圧迫する中、患者が病院へ行き、処方箋をもらって薬局で薬を受け取る、という動線には課題が多い。まず薬局に来てもらい、市販薬での対応か、受診勧奨で医療機関を紹介するなど、医療の入り口を整備できれば、医療側への負担を減らし、医療機関も薬局もより良い患者対応が可能になる。動線を変えるのは簡単ではないが、今年、PCR・抗原検査を薬局で実施したことは、薬局の存在意義を示すことにつながった。
さらに歩を進めるためには、人材育成が肝要だ。薬剤師も医師、看護師らとの処方箋のやり取りだけではない連携を深め、動線を変える土台をしっかりと作っていきたい。
えぐろ・たろう 1976年、旧大胡町生まれ。大学卒業後、米国で経営学修士取得。国内大手製薬会社で営業、海外事業、マーケティングを経験し、2010年にクスリのマルエに入社。16年から現職
■「酒」の魅力を追究 サントリー市場開発本部広域営業第2支社長 石川 太郎氏
外食企業を担当する中、消費者のライフスタイル、嗜好(しこう)がコロナ禍で変わったと実感。創業以来の「やってみなはれ」の精神の下、新たな価値創造に挑戦している。2008年に始まった角ハイボールの展開は、常識を覆すウイスキーのスタイルだったが、その後の市場拡大につながった。顧客起点の大切さを実感した経験だった。
近年アルコールを飲まない人も増えている。アルコール0%のお酒で、お酒を飲む人も飲まない人も共に楽しめる文化の創造にも取り組んでいる。食事を引き立て、コミュニケーションを円滑にするといったお酒の素晴らしさを伝えながら、多様化するニーズに応えていきたい。
いしかわ・たろう 1970年、埼玉県越谷市生まれ。大学卒業後、サントリーに入社。外食事業開発部、仙台支店、首都圏営業企画部、埼玉支店、東海北陸営業企画部を経て、現在は市場開発本部で外食ビジネスを担当
■社員全員が「社長」 親広産業取締役 桑野 勇祐氏
メインの不動産業に加え、太陽光発電にも取り組んでおり、現在400基超の発電所で約1万2千世帯分の発電に成功している。
喫緊の課題である日本のエネルギー不足に貢献するため、農業の営農型発電所、土木・林業のウッドチップを利用したバイオマス発電所など、さまざまな方面から事業展開していく。
各事業展開を可能にすべく、群馬県で福利厚生ナンバーワンを目指し、各方面の国家資格の複数取得・複数業務兼任を可能にするなど、人材育成の大幅な強化を図る。社員一人一人が、社長のように、リーダーとしてそれぞれの事業を展開できるよう、社内体制を醸成していきたい。
くわの・ゆうすけ 1985年、前橋市生まれ。高崎経済大卒業後、都内で不動産業に従事し、26歳で独立。太陽光事業では建設から発電所管理まで約10年の実績。2022年から現職
■環境との共生模索 ソウワ・ディライトCEO 渡辺 辰吾氏
会社のビジョンを「宇宙のミライにワクワクする」に変えた。ICTが急発展する中国・上海を見学し、グランドデザイン(全体構想)が人間の富のみが中心になっていることに危機感を覚えたからだ。
地球全体で人口が爆発的に増え、環境も深刻な事態となっている。宇宙との連続性の中で、人としての生き方や企業のあり方を考えなければならないという思いを込めた。
今年2月、国際会議の場で、利益を社会課題解決に利用している活動を紹介したところ、多くの企業が興味を持ってくれた。収益性と環境との共生は二律背反の難題だが、他企業との連携を通じ、会社の存在価値を高めていきたい。
わたなべ・しんご 1976年、前橋市生まれ。2014年から現職。「宇宙のミライにワクワクする」というビジョンを掲げ、人と地球、地域と企業が共生可能な循環型エコシステムinfinite loopを構築
■新しい教育を提供 有坂中央学園理事長 中島 慎太郎氏
県内で専門学校9校と、高等専修学校2校を運営しており、今年創立80周年を迎えた。
コロナ禍を経て、新しい教育の形を模索している。一つは、デジタルを活用した学びやすい教育環境の構築。オンとオフを効果的につなぎ、最善の環境を整えていく。もう一つは、社会の変化の中で新しい職業が増え、それに伴う人材ニーズの変化に対応すること。それぞれの業界と連携しながら、人材育成を進めたい。
地方の教育機関は、岐路に立っている。ただ、カリキュラムといった学校の持つコンテンツの価値は大きい。幅広い世代に提供するなど、財産を最大限に生かせる組織づくりにも注力していく。
なかじま・しんたろう 1976年、前橋市生まれ。大学卒業後、TACを経て2004年に中央カレッジグループに入職。22年からグループ中核の学校法人有坂中央学園の理事長に就任
◎12月4日(日)ファイナル観覧募集 16組がプレゼン ダンスや討論会も
「群馬イノベーションアワード(GIA)2022(上毛新聞社主催、田中仁財団共催)」のファイナルステージが12月4日、前橋市の日本トーターグリーンドーム前橋で開かれる。一般の観覧募集を受け付けている(12月1日まで)。申し込みは専用サイト=右記コード=へ。
ファイナルステージは午前11時半開場、午後1時開幕。午後2時40分から、安中総合学園、健大高崎、高崎工業、樹徳の県内4校による「高校生ダンスコラボパフォーマンス」を開催。午後3時15分からGIA10周年記念企画として、実行委員によるパネルディスカッションが行われる。会場内ではGIA協賛社や歴代入賞者らが出展する「イノベーションマーケット」も同時開催される。問い合わせは事務局(☎027・254・9955)またはGIA専用サイトへ。
22.11.16 上毛新聞掲載はこちら